2006年03月01日

ごもっとも!面白い話

またまた見つけました。

朝のラッシュはつらい。身動きができないし、真冬でも車内の空気が生暖かいような人いきれだ。ときどき酸素不足で死にそうな気分になったのは、私一人ではあるまい。いつぞやはホームから見ていたら、去り行く電車の扉のガラスにタコの吸盤のようにはりつき、ブタ鼻をしたまま身動きの取れない中年男性を見掛け、思わず笑ってしまったことがある。

しかし、次の瞬間私は深く反省した。彼は何もすき好んでホームの群衆に、自分のブタ鼻面をさらしていたわけではないのだ。もう少し動ける空間がありさえすれば、吸盤のようにはりつくくらいで自分をとめたであろうが、それすらできずかような事態になったのだ。しかも次の駅では反対側の扉しか開かないうえに、降りる人はほとんどいない。彼が、いや彼の鼻が無事であったかどうかは神のみぞ知る、であろう。

こんな満員電車の中の時間を懸命に耐えていたとき、ある臭気が漂ってきた。かなり強烈ないわゆる音のない、一般に「すかし」と呼ばれるバイオガスである(言い回しが長いことは許していただきたい。一応私といえども女性としてのたしなみがある)。周囲の人垣は無言ながらも明らかな動揺を見せ、みな首は動かさず目だけで臭気の源と思われる方向を探っていた。

運悪く、その源は私の近くであった(ここで自分の名誉と誠実さにかけて私ではないことを断言しておく)。私が目だけで源を探れば、誤解を受けるかもしれない。とっさに私はその方向と思われるほうに首を向け、顔をしかめた。顔をしかめられた側にいた男性も同じ気持ちだったらしく、彼の顔も視線もある一方向を向いている。彼の隣の人も、その隣も…。そして視線のいきついた先には、ボディコンでロン毛、化粧バッチリのねーちゃんと、作業服姿の中年男性がいたのである。

敏感に雰囲気を察知したねーちゃんは、皆に聞こえるような大声で言い放った。
「いやあねえ、おじさん。おならなんかして!」
しかし、男性も負けてはいなかった。
「何でわしのおならがあんたの尻から出るんじゃ!」
この声はねーちゃんの声よりもデカかった。臭気の届いた範囲を十分にカバーするだけの声量があったことは言うまでもない。
ここでねーちゃんがデキルタイプであれば、
「ウッソー、あたしのおならがおじさんのお尻から出たんでしょ!」
と切りかえすところだが、人間とっさにはなかなかここまでの反応は難しいらしい。(この切りかえしを使えば暗に自分の責任も認め、でも源は自分ではないという格好の言い抜けであると思うのだが)。次の駅についた途端に、ねーちゃんはとっとと電車を降りてしまった。ほのかな香りだけを残して。




Posted by 絞り at 10:52│Comments(0)
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